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彗星夜襲隊―特攻拒否の異色集団 (光人社NF文庫)

彗星夜襲隊―特攻拒否の異色集団 (光人社NF文庫)

最近、うっかり本の山を崩してしまったせいで再発見したんで再読。
特攻を拒否し、創意工夫に満ちた夜間攻撃で戦果を上げ続けた航空機部隊「芙蓉部隊」の戦記です。
この部隊、指揮官の美濃部少佐がすごい。
海軍全体の空気が特攻に向かっていた時期に、しかも、根回しがすんだ会議の席で偶然に参加した一介の少佐*1がお偉方相手に「赤トンボ*2を特攻に出して清算ありとお考えならば、あなた方が乗ってやってみるがよろしかろう。私が零戦一機で全て叩き落して差し上げますから」と発言。
これだけでも相当なものですが、ここからがさらにすごい。
そこまで言うなら戦果を上げてみろ、という話になってしまいますな。
で、実際に戦果を上げちゃうんですよ。
しかも、持続して。

フィリピンからの基幹搭乗員の脱出行に始まり、零戦にのって空きのある基地を探すところからスタートする部隊再編など、なんというか、末期の日本軍の悲しいまでの実情が出てきます。
本の題名にもなっている主力装備機「彗星」艦上爆撃機もその液冷エンジンゆえに他の部隊で持て余されていたから使用できたという有様。*3
ただ、それでも前線基地と後方基地とに部隊をわけて訓練・休暇と実戦を交互に行い部隊の練度を維持するなど、非常に合理的で工夫された訓練、運用や戦術で感心させられます。
特攻に対してのアンチテーゼとして有効かと。
ただ、芙蓉部隊は明らかに優遇された部隊ではありますが。*4

これほどの部隊でも8月15日が近づくにつれ、特攻へと傾きだします。
確実に追い詰められていく様が実に、実に悲しい。

しかしまあ、この芙蓉部隊。
普通の部隊では扱いきれない機体や特殊爆弾をかき集めて運用*5、とか実質的に「指揮官」美濃部少佐に指揮されているが書類上での彼の権限は曖昧である、とか。
どこかのジオン軍かと思うほど異例づくしの部隊で、読んでいて正直、実在部隊とは信じられなかったですよ。
本当に。

*1:しかも若干29歳

*2:九三式中間練習機のこと。間違っても戦闘が可能な飛行機ではありません。

*3:全国各地から機体、エンジンをかき集め、メーカーの技術者を動員して整備、使用しています。

*4:補充機が来るし、補充の搭乗員も来ます。しかも補充の搭乗員にはベテランが多いです。当時の情勢を考えると、すさまじく優遇されていると考えてもいいかと。

*5:しかもまともに